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   芝のコートに出た二人は、自由なスタイルで打ち合う乱打を始めた。

   宍戸がフォアハンドで鳳に返球しながら言った。

   「ここには跡部や忍足や向日も……3年レギュラーならほとんど全員が来てるぜ」

   初めて知った事実だったので、鳳は驚いてしまった。

   一体、ココに集まって何をしているのだろうか?

   「決まっているだろ? オレたちは来年、全員高等部にあがるんだ。

   高等部の選手層は中等部よりもさらに厚い。オレたちは、またイチから始めるんだよ」

   宍戸は大きく飛び上がると、ネット際にジャンピングボレーを叩き込んだ。

   鳳はごくんと唾を飲みこんだ。

   自分もかつて氷帝学園テニス部員200人の中から這い上がり、レギュラーを勝ち取った一人だった。

   その過酷さは身を持って知っている。

   「鳳も先輩たちは何人か知っているよな?」

   「ええ、知っています」

   鳳が1年の時にいた先輩たちは、跡部に匹敵するような強くて癖のある人ばかりだった。

   「氷帝は実力主義だ。あの人らもレギュラーを落としたくはね〜だろう。

    お歴々の皆サンが対抗策を練って待っているんだぜ。 こっちものんびりしている場合じゃね〜だろ?」

   宍戸のスマッシュが鳳の足元に決まった。 コース取りの良い、切れのある球筋だった。

   鳳は、唇をかみ締めた。

   自分が宍戸の事ばかり考えてぼんやり過ごしているうちに、宍戸はもっと先を目指していた。

   毎日夜遅くまでテニスの練習をしていた宍戸を思うと、鳳は自分の間抜けさが恥ずかしくてならなかった。

   「……宍戸さん、オレのサーブ受けてもらえますか? オレ本気で打ちますから」

   「ああ、良いぜ」

   鳳は深呼吸をして気を引き締めると、ラケットを握る手に力を込めた。




   宍戸は自分の目の前に叩き込まれた鳳のサーブに目を細めた。

   さらに速度を増し重くなったボールは、芝のコートにめり込むようだった。

   右や左に自在に打ち込み、コントロールも以前よりもずっと良くなっている。

   持ち球の無くなった鳳に送球しながら、宍戸は言った。

   「跡部は1年でレギュラーを取るつもりだ。

   まあ〜アイツは<可愛い1年生>なんて、柄じゃね〜からな」

   鳳も想像して思わず笑ってしまった。 大人しくて殊勝な跡部先輩なんて全く想像がつかない。

   「オレも1年でレギュラー入りするつもりだ。 他の学校じゃ考えられないけどな。

    氷帝の実力主義は、そういうトコロが良いよな」

   宍戸はそう言って静かに笑った。

   実力主義だからこそ、力の無い人間はあっという間に蹴落とされてしまう。

   それを身を持って知っている宍戸の言葉はとても重たかった。

   鳳がさらに30球ほどサーブを打った後、宍戸がこう言った。

   「なあ〜長太郎。今度は試合しよう〜ぜ。 手加減一切無しの真剣勝負だ。

    お前、来年は副部長なんだってな。

    氷帝学園テニス部の副部長の実力、オレに見せてくれ!」




                                  
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